勝呂は、先に寝ていた燐のとなりに体をすべらせるようにしてベッドに横になった。なんだかんだとあしたの準備をしていたら、思ったよりも夜は更けてしまったのだけれど、いくぶんかは眠りにつけることにほっとして勝呂は目を閉じた。
まどろみはすぐにやってきた。頭の感覚が闇にとけるように外に広がって、なにも考えられなくなってくる。体がそこにあるのかないのか判断がつかなくなるほどのあいまいなものに支配されて、力が抜けてゆく。ゆめとうつつの境目が消えようとしていた。
と、腕に自分のものでない温度を感じて勝呂の意識は引き戻された。
重ったるい瞼をやっとのことで持ち上げとなりを見ると、燐の腕が勝呂にまきついていた。さっきまであったふたりの間のすきまがなくなっていて、燐の体はぴったりと勝呂に寄りそっていた。
燐の顔をうかがえば、その目は閉じられている。けれど、燐の体にもその行為にも明確な意思があった。求めと期待とに満ちた熱さがあった。
「―――今日はできひんぞ」
「わかってる」
燐が言うのを聞きとどけて勝呂は燐に背中を向けた。
と、燐は勝呂に足をからませてくる。
こいつはほんとうに分かっているのか。勝呂の口からため息がでた。
「おい、やめや」
「くっついてるだけだって」
そう言うくせに、Tシャツごしに背中をなでるその手はなんだと勝呂は思う。
あしたは朝から仕事がつまっているのだ。だから、夜中に体力を使ってその体のまま朝を迎えるのは避けたい。あしたが休みであれば、そうでなくてもせめて遅出であれば、とはなんの意味もない仮定ではある。
燐の手がシャツの中に入ってくる。腹の上を動いて、その手は胸まで届いた。
「ええかげんにせえ」
言葉で制したところで、燐の手は止まらなかった。まさぐるように這わされた手は、胸をおりて腹をとおりすぎ、さらに下へいこうとする。
「あかんゆうてるやろが」
勝呂は燐の手首をつかむとシャツの外へとおいやった。肩越しに見た燐はしっかりと目を開けていて、視線が合うと、その顔を勝呂に寄せた。
「なあ、しようぜ」
ねだりながら燐はもうひとつの手のひらを勝呂の太ももに置き、じわじわと内股をさする。そのいっぽうで勝呂のTシャツをまくりあげると、あらわになった勝呂の背中にじかに唇を落とし、その肌をやわらかく舐め上げた。
まったく、あの『わかってる』はいったいなんだったのかとなじってやりたい。人の言うことをぜんぜん聞いていないし、人の事情も、理性も、簡単にないことにしてくれる。
勝呂はあきらめの息を吐くと、燐のほうへ勢いよく体を向けなおした。
見据えた燐の目は暗がりに白く、水気をまとって揺らいでいる。ひとりで勝手にたかぶって、そうして人を巻き込んで、本当にやっかいなものだと思う。
ちょっとだけやぞ、告げようとして勝呂はやめた。はじめてしまえばちょっとだけですむはずもないし、いくところまでいかなければ満足できないのは勝呂も燐と同じだった。
首にからみついてくる腕が勝呂を燐へと引き寄せる。
火蓋は切って落とされた。
その7:誘う
(2011.08.04)
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