終電もとっくに終わった夜のころ、寒々しいくらい真っ白に照らし出されたコンビニの前を勝呂は通り過ぎてゆく。ちらほらと店の中には客が見えて、自分たち以外にもまだ動いている人間はいるのだなあとぼんやり思いながらやがて三叉路を左に折れた。
 本当はコンビニに寄って水を買いたかったのだ。けれどそれができなかったのは、酔いつぶれた燐を背中に乗せているからだった。
 気持ちよさげに目を閉じて眠る燐の体は意識がないからやたらに重い。力の抜けきったぶん燐の体重がどっさり勝呂にのしかかっていた。家までたいした距離ではないけれど、歩いて運ぶのには骨が折れる。あしたは筋肉痛で間違いなしだ。
 久しぶりに外で飲んだのが燐には楽しかったらしい。酒には弱いくせにいっぱい飲みたがって結局このありさまだ。ちょっとでもアルコールを口にすれば、すぐに顔も首も、見える肌ぜんぶがほの赤に染まる。うるんだ目がとろんとしはじめたら、次にろれつがまわらなくなって、とうとう話している言葉も意味不明になる。そうして燐は完全に酒にのまれるのだ。
 けれど、そんな燐の姿にも勝呂の目じりは下がるし、頬が緩むのを勝呂は止められない。飲んだ酒がそうさせるのではなくて、一緒にいる燐がそうさせるのだ。勝呂が、無性に燐のことを好きだなあと思うのも、しみじみと脈絡のない幸せを感じてしまうのも、ぜんぶ燐のせい。勝呂を酔わせるのは酒ではなく燐だった。
 少し背中が軽くなったように感じて勝呂は足を止めた。肩越しに燐の様子をうかがうと、うしろで燐がもぞもぞと体を動かしていた。
「起きたんか?」
 勝呂が声をかけるのに、燐はぐずぐずと顔を見せてううんとうなるだけで、完全に意識を取り戻したわけではないらしい。
「おい、燐」
「んー、すぐろー」
 寝ぼけた頭をきょろきょろと左右にふって燐は勝呂を探している。
「俺はここにおるで」
 笑いをかみしめながら勝呂が言うと、燐は安心したようにもういちど勝呂の名前を呼んで、ほころんだ顔を勝呂の肩にうずめた。
 背中に燐の重みが戻ったのを確認して、勝呂はふたたび歩き出した。
 そういえば喉がかわいたなあと勝呂は思った。





その5:おんぶする
(2011.08.03)


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