俺を燐と呼んだのは、親父がいちばんさいしょ、次にしえみで、三番目が勝呂だった。
勝呂にはじめて燐と呼ばれたとき、俺たちはもうキスもセックスも経験していたけれど、やっぱりそれは俺にとって大きな変化だった。
それまでずっと「奥村」だったのが「燐」に変わって、しばらくはそう呼ばれることにちょっとした違和感があった。その感じは勝呂を自分の体の中に受け入れるときのと似ていた。体をつなげるほうの違和感はすぐになくなったけれど、名前のほうは慣れるのに少し時間がかかった。
いまでは燐と呼ばれるのがあたりまえで、もとは奥村と呼ばれていたことが懐かしくて笑ってしまう。いまさら奥村は考えられないし、燐と呼ばれないでは満足できない。
「なんや、どないした」
「んー考えごと」
「やめとけ、性にあわんことすな」
「分かってるけどさ、たまにはなあ」
「で?」
「ん?」
「なん考えとったんや」
「―――勝呂は知らなくていいことだ」
はぐらかしたら、
「なんやそれ」
勝呂がしつこくきいてくる。
俺はちょっとうざくなって勝呂から逃げてみた。
「待てや、燐!」
追いかけられて俺は走る。
勝呂がまた「燐!」と声を上げた。
そうだ、もっと俺を呼ぶがいい。
おまけ:名前をよぶ(燐の場合)
(2011.8.21)
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