勝呂はこうみえて実はけっこうな本好きだ。難しいタイトルのぶあつい本から有名な作家の文庫本までとりどりにそろっている本棚を見ればそれがよく分かる。いっぽうで俺はあんまり本を読むのが得意じゃない。漫画ならもちろん大好きだけれど、本はすぐに眠たくなるからだめだった。
 いまも勝呂はソファに座って本を読んでいる。買ってきたばかりの小説で、待ちに待ったシリーズの最新刊なんだそうだ。
 まったく、あんな真剣な顔つきで本を読むからメガネをかけるはめになるのだ。俺をほったらかしにできるくらいおもしろいとでもいうのか!
「おい、勝呂、」
「んー」
 さっきから生返事ばっかりだ。俺を見もしないし、俺がどうして呼んだのかなんてちっとも考えてくれていない。
 あくまで俺を意識のそとにおこうとする勝呂の体を俺は力づくで横へ押した。それでも抵抗しない勝呂はぎこちなくソファの上をすべってその端っこに寄った。
 俺のやっていることが勝呂にぜんぜんひびいていないのが悔しいから、俺は、ソファの空いたスペースにあおむけにねころんだ。頭は勝呂の太ももにのせてやる。
「なんや、燐」
 勝呂がちらりと俺を見下ろした。
「寝んならベッドいけ」
「眠くない」
「なら起きとけ。てか邪魔や」
「いやだ、つまんねえ」
 これで勝呂が俺にかまってくれたらいいなあと思ったら、勝呂はこれみよがしにため息をついて、
「勝手にせえ」
 と終わらせた。
 勝呂はまた手元の本に目を落として俺を視界から遠ざけた。勝呂の、黙々とページをめくる音がやけにいじわるに聞こえた。
 やることのなくなった俺は、勝呂の肘をつまんで薄い皮をぐりぐりといじる。
「なあ、それ、まだ終わんねえ?」
「まだ」
「―――つまんねえの」
 俺は勝呂の肘から指を離して、体を横にたおした。勝呂の顔が見えなくなってせいせいした。
 ふいに頭のうえを影がよこぎったので、なんだなんだと首をひねって見上げてみたら、俺を見る勝呂の目と目が合った。
「もうちょい待っとけ」
 言われて、勝呂の手に頭をなでられていた。
 相変わらず勝呂の目は小説のほうにばかりいっているけれど、俺の髪をすいてくれる勝呂の片手は俺のものになった。髪の毛をいじられるのは気持ちがいいから俺はそれが大好きだった。
「しょうがねえなあ」
 心のひろい俺は、勝呂が読み終わるまでおとなしく待ってやることにした。





その2:膝まくらをする(頭をなでる)
(2011.07.30)


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