たてつけの悪いぼろ家の窓ががたがたと音を立てているのは強い風が打ちつけているせいだった。
 自分たちの住む地域に台風が近づいているのだと夜のニュースでやっていたから、そろそろ暴風圏内に入ったころなのかもしれない。
 ひゅるひゅると隙間風が入る部屋の中で木製のベッドがぎしぎしと音を立てているのは、燐の上に覆いかぶさって腰を揺らしている雪男のせいだった。
 おやすみと雪男に告げて先にベッドに横になったらすぐに手が伸びてきた。見れば雪男の眼鏡の奥が濃い色を持って波立っており、なんとなく今夜はそうなるんじゃないかという予感のあった燐は、仕方ないなと雪男を受け入れたのだった。
 一度燐の中に入って達しても満足できないのか雪男はなかなか出ていこうとしない。ぐずぐずと中に留まって緩く長く燐を感じようというつもりらしい。

 はじめて雪男とひとつになったのはいつのころだったろう。
 雪男が自分とそういう意味でつながりたいと望んでいることを燐が気づかないわけがなかった。これでも雪男の兄である。
 いつでもどこでも自分をよこしまな目で見つめてくる弟に不思議と嫌悪を感じなかったのは、燐の心のどこかにそれを望んでいる気持ちが潜んでいたからなのか。
 そういう欲を持っている弟をそれでも咎めないでいる兄を試すように、雪男はどんどんその欲を隠さないようになった。小さく控えめだったはずの欲望の芽は見るごとに勢力を増して、ある日とうとう燐にふりかかった。
 荒く猛る雪男の、かわいそうに思えるくらい切羽詰った素直な熱情を、燐は兄らしく動じぬ態度で受けとめた。と言いたいところだが、受けとめるには大きすぎた雪男の欲情に途中からは翻弄された。ごめんなさいと口では謝りながらみだりに腰を振り続けた雪男がこぼした涙は、思いを遂げることのできた歓喜の雫に違いなかった。
 幼いあのころに戻ったようにしがみついてくる雪男を許すも何もない。
 双子の弟である雪男は燐にとって、生れ落ちたときに失われた自分の半身であり、雪男にとっても、双子の兄である燐は本来は雪男にあったはずの半身だった。
 己の半身がもう片方の半身を求めるのは不自然なことではないと思う。欠けたピースを埋めて完全になりたいと思うことの何が悪い。
 そんなふうに開き直れるのだから双子は都合がよかった。
 男同士で兄弟でひとつになることに背徳を感じる必要はないのだ。なぜなら燐と雪男は、男であり兄弟であるまえに、もともとひとつの存在だったのだ。

「兄さん、いま考えごとしてるでしょ」
「ばれたか」
 さすが双子の弟である。よく分かっている。
「もう、ちゃんと集中してよ」
 ぐいと力任せに腰を引き寄せられてつながりが深くなった。たまらず甘い声で鳴けば、満足げに目で笑う雪男に見下ろされ、さらに高く足を持ち上げられる。
 調子にのりやがって。
 はじめてのとき恐る恐る燐を抱いた弟はどこへいった。兄さん兄さんと泣いてすがるから痛いのを我慢してその大きな体を抱きしめてやったというのに。
 さっきまでの停滞を吹き飛ばすような勢いで欲望を突き立てられて、重くて苦しいけれど、それに負けないくらいの快感が燐に押し寄せる。
「ひあっ、あんっ!」
 どこが燐のいいところなのか雪男にはもう知られている。そこばかりを突いてくるから気持ちがよすぎておかしくなりそうだ。
 あの日からだいぶ上手くなったものだと思う。それもこれもこの兄のおかげであろう。
「ねえ、いい加減にしろよ」
「ん?」
「さっきから何考えてるのさ」
「おまえのことに決まってんだろ」
「―――ふうん」
 嬉しいくせにまったくかわいくない反応である。そんな素直じゃない弟にはお仕置きが要るだろう。
 持ち上げられた両足を雪男の背中に絡めて、ぐりと尻を押し付けてやった。
 もっともっと搾り取ってひいひいと泣かせてやるつもりである。





ベターハーフ
(2011.10.30)


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